『完全記憶探偵』超記憶力を持つ元NFL選手にして元警官の探偵が銃乱射事件の謎に挑む

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完全記憶探偵

人は忘れる生き物だと言われる。それは何も悪いことばかりではない。手痛い失敗やつらい記憶が時間と共に薄れてくれるおかげで、私たちはいつまでも過去に囚われたり、苛まれたりせずに前を向いて生きることができる

だが、この世には一度見たものを忘れられない人たちも居る。彼らが悲惨な事件現場を目撃してしまったらどうだろう。しかも、そこで亡くなったのは自分の身内なのだ。

『完全記憶探偵』あらすじ

『完全記憶探偵』の主人公は元刑事で現在は私立探偵のデッカー。大学卒業後にドラフト外でクリーブランド・ブラウンズに入団した元NFL選手でもあるが、デビュー戦で激しいアタックに遭い大ケガを負ってしまう。そのとき生じた脳の損傷により彼は超記憶力を手に入れた

選手生命を絶たれたデッカーは警察官になり、超記憶力を頼りに刑事として活躍する。理学療法士の妻と10歳の誕生日を間近に控えた娘との生活に安らぎを感じていた。その生活が一変する。

夜遅く帰宅したデッカーは自宅で妻子と妻の兄の遺体を発見する。その光景に絶望したデッカーは拳銃を咥えて自殺しようとするが引き金は引けず、通報を受けて駆けつけた同僚の警察官たちに説得を受ける。

自暴自棄から荒れに荒れたデッカーは警察を退職。15か月後の彼は元プロフットボーラーの鍛えられた肉体は見る影もなく、全盛期から20キロは太った肥満体の私立探偵になっていた。探偵として活動する前の時期にはホームレスも経験。

超記憶力により事件現場の詳細な光景は1年以上経ったいまも彼の頭から消えてくれない。探偵とは名ばかりの使いっ走りのような仕事をしていた彼のもとに元相棒がやって来る。デッカーの妻子を殺したと称する男が自首してきたという報告を携えて。

さらに時を同じくしてデッカーの母校でもある高校で銃乱射事件が発生。次々に生徒や教師を撃ち殺した犯人は忽然と姿を消してしまう。元上司の計らいでコンサルタントに雇われたデッカーは乱射事件の捜査に協力。捜査を進めるうち乱射事件で使われた拳銃と、デッカーの妻を殺した拳銃の線条痕が一致する。2つの事件で同じ凶器が使われた。

さらに乱射事件の犯人はデッカーを翻弄するように方々で彼へのメッセージを残す。果たして犯人は何者なのか。なぜデッカーに激しい憎悪を燃やすのか。

『完全記憶探偵』感想

現場の状況を細大漏らさず記憶に留め必要なタイミングで再生できる超記憶力キャラクターは、ミステリー作品では便利なサブキャラクターに使われがち。それが今回は主人公。しかもデッカーの場合は「大学やプロでは大した選手じゃなかった」「人一倍の努力で何とかプロの世界に滑り込めた」と自己評価しているが、それでも元NFL選手で身長2メートル弱、体重は150キロの巨漢だ。

探偵の後ろに隠れて求められたときだけ助言するようなキャラクターではない。第一どこにも隠れられない。ちなみにデッカーの身長、体重に近い現実の有名人は横綱の白鵬らしい。

その巨体を活かしてFBI捜査官と揉み合いになった際は、先制攻撃を受けながらも反撃して逆に抑え込んでいる。

不摂生で鈍ったとはいっても元プロフットボーラーの身体能力に、事故で手に入れた超記憶力という組み合わせで犯人を追いかけるデッカー。だが超記憶力はあくまで事実を記憶しておけるだけで、その事実が大事なことだと認識できてなければ目の前の出来事との関係性を見出せない。必要な記憶が自動的にポップアップしてきて解決に導いてくれることはないのだ。

デッカーは記憶の中から他人に強く恨まれるような振る舞いがなかった探す。思い当たる節はない。20年分の記憶をDVDでも見るように再生できるのに。

人並み外れて屈強な肉体と超人的な能力を与えておきながら、その能力の限界が謎解きの中心的な問いになっているのが面白い。

続編の『完全記憶探偵エイモス・デッカー ラストマイル』も邦訳済み

著者のデイヴィッド・バルダッチは邦訳が少なく私も初読みだったが、アメリカでは30冊以上の小説を出版してベストセラーランキングの常連でもあるらしい。『完全記憶探偵』もニューヨークタイムズのベストセラーランキングで1位を獲得した。

続編の『完全記憶探偵エイモス・デッカー ラストマイル』も邦訳済み。シリーズ1作目で事件を解決したデッカーはFBIにスカウトされ、スペシャリストチームの一員になる。彼は元大学フットボール界のスター選手が起こした両親殺しを捜査する。

20年前に起きた事件で犯人は冤罪を訴えながら死刑執行寸前。だが、まさにその時、彼の両親を殺したという真犯人が現れた。自らの妻子殺害事件と類似したものを感じながらデッカーは20年前の殺人事件を捜査し直す。

私はこれから読むところだが、既読者のレビューを見るに1作目よりも好評なようだ。

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