『完全記憶探偵エイモス・デッカー ラストマイル』

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完全記憶探偵 ラストマイル

白鵬並の体格と超記憶力を併せ持った探偵が主人公のシリーズ2作目。アメリカでは4作目まで出版済み。

前作で自らの妻子が殺された事件にけりを付けたデッカーは、今作からFBIの特別チームに加わる。彼は元大学フットボール界のスター選手で、両親殺しの容疑により20年間服役するメルヴィンの事件を再捜査することになった。

メルヴィンの死刑が執行される5分前に真犯人を名乗る男が現れたのだ。

果たしてメルヴィンの両親を殺したのは誰なのか。デッカーが前向きに人生を建て直そうとする姿は、犯罪被害者のその後としても読める。

『完全記憶探偵エイモス・デッカー ラストマイル』あらすじ

FBI特別捜査官ボガートが率いる特別班入りの意思を固めたデッカーは、本部への道すがらカーステレオから聞こえてくるラジオに耳を傾けていた。

かつて大学フットボールで活躍し、デッカーも対戦経験があるメルヴィンの起こした事件で、自分こそが真犯人だと主張する男が名乗り出てきたのだ。再審請求がことごとく棄却され死刑寸前だったメルヴィンは、人生残り数分の窮地からカムバックを果たす。

メルヴィンの事件に興味を持ったデッカーは特別班が扱う最初のケースに推薦。多数決で承認されさっそくメルヴィンに会いに行く。

初めは頑なに心を閉ざし、デッカーの聴取にも反発していたメルヴィンだが、次第に2人は打ち解け親友になっていく。一方で事件の捜査が進むとメルヴィンも知らなかった両親の秘密が見えてくる。平凡な田舎町の質屋店員だと思っていた父親は何者なのか……。

『完全記憶探偵エイモス・デッカー ラストマイル』感想

今回はチームで謎に立ち向かう

シリーズ1作目は妻子を殺され、人生のどん底で自暴自棄になっていたデッカーが、警察官時代の上司や相棒に支えられながらも基本的には独力で犯人と頭脳戦を繰り広げる話だった。

デッカーはNFLデビュー戦で頭部に強い衝撃を受け生死の境を彷徨った代わりに超記憶力を得たが、その代償として人格が変わり、自分や他人の感情を細かく捉える能力が欠けている。目の前の物事に集中すると相棒にも何も相談せずかっ飛んでいく。

自分の人生に暗い影を落とす事件に立ち向かっていくデッカーの語りは重く、全体に乾いた雰囲気があった。それに比べると今回は少しライトだ。ボガート率いるチームが始動して1作目よりも周囲の人間と協力しながら捜査を進めるようになったこと、自分の妻子を殺した犯人との因縁にけりがつきデッカー自身が、己の人生を前向きに生きようとし始めたことが関係しているのだろう。

脱おデブを目指してダイエット開始!

『ラストマイル』では事件の捜査と並行してダイエットに励むデッカーの姿も描かれる。家族を失ってからの荒れた生活で不摂生が祟ったデッカーは数十キロも太り、動くとすぐに息が上がるおデブ体型になっていた。

前作にも登場し、デッカーと共に特別班入りを果たした元ジャーナリストのジェイミソンが、『ラストマイル』ではデッカーの食事内容に厳しく目を光らせる。冒頭では「ゴミ処理機のように」ワッパーを流し込んでいたデッカーが、ジェイミソンの指導に従いサラダ、フルーツ、ナッツを食べながらスポーツジムでのワークアウトやウォーキングを開始する。

人生いつ死んでもいいと思っていたときには気にしなかった自分の体重や健康を気にかけ、前向きに努力しようとする姿は、消えることのない記憶に苦しめられながらも過去ではなく未来に向かって生きようとする姿勢の変化を物語る。

メルヴィンとの間に築かれる一生ものの友情

デッカーとメルヴィンは大学時代に対戦経験がある。ディフェンスの選手だったデッカーはメルヴィンと直接対決し、その実力は間違いなくNFLでも大活躍したはずだったと太鼓判を押す。

「きみは一発屋で終わる男じゃない。いずれはバリー・サンダーズやエミット・スミスのような選手になったはずだ」

笑いながらマーズが言う。「まいったな、デッカー。そこまで言われるほどじゃないぜ」

「お世辞ではない。わたしだって一度はプロになった身だ。うちのチームのランニングバックには、きみに匹敵するほどの実力の持ち主はひとりもいなかった」

ステーキを切る手が止まる。マーズはいまの言葉を否定しようと口をひらいたが、デッカーの顔に浮かんだ真剣な表情を見て、黙り込んだ。

ふたりの男の視線が絡みあう。

「ありがとうな。そう言ってもらえると……すごく支えになる」

そのあとは、ふたりとも黙ったまま料理を食べた。

『ラストマイル』では前作よりもフットボールを絡めた話の進め方が多い。フットボールの戦術だったり、フットボールが結ぶ男と男の絆だったりが、良くも悪くも物語の中心にある。

とにかく努力だけで大学フットボール界を生き抜き、プロの世界に潜り込んだと自認するデッカーと違い、メルヴィンは「努力はしていたが、ほとんどは神が与えてくれた才能だった」と語る天才。

同じフットボーラーでも選手としての資質は正反対だった2人が、運命のいたずらから出会い、危機を乗り越えながら“兄弟”になっていく。ラストシーンには爽やかな読後感を残す。

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