『ジョイランド』青春の苦さと痛さと殺人事件の謎

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『ジョイランド』スティーヴン・キング

シャイニング』や『IT』で知られるホラー界の巨匠スティーヴン・キング。彼がペーパーバック専門の小規模出版社から出した中編ミステリー。このあとに“キング初の本格的ミステリー”と謳われた『ミスター・メルセデス』で米国ミステリー界最高権威のMWA賞を受賞するわけだが、ともすれば習作と見られてしまいがちなこの小品にも大きな魅力がある。

小品と言ってもハードカバーで上下巻になるのが当然のキング基準だから「今回は短いな」だが、『ジョイランド』も文庫本で400ページ弱ある。

『ジョイランド』あらすじ

舞台は1973年。作家志望の大学生だったぼくことデヴィン・ジョーンズは、夏休みに小規模遊園地ジョイランドでアルバイトすることになった。21歳。童貞。愛する彼女ウェンディとは“それっぽい雰囲気まで行ったが未だ合体は果たせずにいた。

ジョイランドに来る前から薄々態度がおかしいなとは気づいていたが、やがてウェンディが他の男と寝たことが決定的となり、夏休みの間に一度も顔を合わせないまま破局する。

失恋の疵痕を埋めるようにジョイランドでの仕事に精を出すデヴィン。着ぐるみ係として意外な才能を発揮してオーナーに重用され、他の仕事でもベテランたちからかわいがられる。一生の友となるトム・ケネディ、エリン・クックとも出会った。

ウェンディのこと以外は万事オーケーな日々を過ごすデヴィンだったが、下宿屋の女将さんから4年前にジョイランドの幽霊屋敷で女性が首を切られて死んだ事件があったと聞き、調べてみると同様の事件が各地で起きていた。

親友の手を借りながら調査を開始したデヴィン。やがて彼は犯人の正体にたどり着く。

『ジョイランド』感想

前半と後半で違う作品くらいの気構えで

本作は前半と後半でキッパリ別の話だと思ったほうがいいだろう。

前半は彼女に浮気されて失恋したデヴィンが、やがてディズニーランドなどの大資本系遊園地に飲み込まれ閉鎖する地方の遊園地でひと夏のアルバイトに励み、様々な出会いを経験しながら自分の仕事で大人たちに認められていく青春ストーリーだ。

20歳そこそこの青年が働くことを通して大人の仲間入りを果たしていく姿をキングは瑞々しく描く。また、精神的な痛手を精神的な対処法で克服するのではなく、身体運動を伴う具体的な活動で乗り越えて行くのもキング作品の特徴である。

キングが作家として若く、勢いがあり、世に自分の存在価値を問う時期だったころの初期作品(『キャリー』『シャイニング』『呪われた街』)には、その特徴が色濃く出ている。超自然的な事象を扱っていても、あくまで結末では肉体的、物理的な解決で問題に対処する。

これを知っておくと、なぜキングが映画版『シャイニング』を毛嫌いしていたかが分かる。小説と映画では作品の核心部分が真逆なのだ。

そんなキングも『IT』のあとは精神的な解決に逃げ込む。モダンホラーの帝王のみならず現代アメリカを代表する文学者のような評価を獲得していくが、それに反比例して彼の長編は『IT』で試みたことの縮小再生産——己の自己模倣になっていく。

これは“作家も歳を取るし老いる”と考えれば仕方ない。いつまでも人間は血気盛んな若者でいることなどできない。近年のキングは長編よりも中短編で見るべきものが多い作家となっている。そのくらいの長さでは『文学的』な解決に逃げることができないためだろうか。

だいぶ話が逸れた。

『ジョイランド』の前半はデヴィンの青春ストーリーとして進む。キングお得意の詳細な日常描写はスロースターターな印象を与えるが、そこを過ぎてから中盤以降はスッキリ。ミステリー展開に入る。

夏休みが終わりトムとエリンは日常へ戻るが、デヴィンは休学して来年までジョイランドで働くことに決める。正式雇用の書類にサインした彼はマイク、アニー母子と出会う。

このマイクはキングお得意の“超自然的な能力を持った子供”で、彼と触れ合ううちにデヴィンはアニーともいい仲になる。

さらにエリンに頼んでいた事件の調査結果が報告され、デヴィンは幽霊屋敷殺人事件の核心に迫っていく。

ミステリー色は薄め 青春ストーリーとして読むのが◎

『ミスター・メルセデス』はミステリー色が薄めで、ミステリーとして読むとどうなんだという部分があった。『ジョイランド』もミステリーとしては弱い。『ミスター・メルセデス』以上にこれをミステリーと呼ぶことは意見が割れそう。

ただ60歳になった老人が40年前に起きたひと夏の事件や冒険を振り返り、生涯忘れ得ぬ出会いと別れの痛みを綴った青春ストーリーとしては面白く、年老いた編集者が若いころを懐かしみながら綴る体裁はキングの『スタンド・バイ・ミー』を連想させる。

ウェンディの裏切りに遭い「はじめて他人からバッサリ切られる経験をした」青年が、仕事を通じて他人から必要とされる経験を積む。

別れから始まる物語は展開部で多くの出会いを経験し、そんな彼らとの別れも通してデヴィンは大人になる。

1970年代。いまよりも社会は幾分かシンプルで素朴に未来を信じ、夢を見ていられた時代。その時期に青年期を過ごした男の物語として楽しんだ。

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